ことしの春闘の焦点の1つとなっているのが60歳以降のシニアの雇用の拡大です。こうした中、定年を60歳から65歳に引き上げることを決めた企業も出ています。
横浜市に本社がある鉄道の信号システムなどの開発や製造を行う会社にはおよそ1000人の従業員がいて、定年が60歳でその後は嘱託社員として働くことができますが、定年後の給料は平均で半分以下にまで減ります。
定年前は部長だった60歳の男性は「仕事の内容は定年前と定年後で大きく変わらないが、給料は10万円以上、下がった。定年退職は誰もが通る道で、処遇が下がるのはしかたがない」と話しています。
会社によりますと、今はほとんどの社員が定年後も嘱託社員として働いているということですが、経営側は人手不足の中、今後は他社に人材が流出してしまうおそれもあるとして、ことしの春闘で定年に関する制度の見直しを労働組合に提案しました。
経営側の提案は定年を65歳に引き上げ、毎月の給料は60歳以降もほぼ変わらないようにし、65歳の定年後も働きたい人は希望者全員を70歳まで雇い、給料も定年時の70%にするというものです。
厚生労働省が去年行った調査では、定年が65歳の企業は全体の16.1%、300人以上の大企業に限ると9.4%にとどまっているため、経営側としては他社に先駆けて導入することを考えたのです。
この会社で働く56歳の男性は「60歳をすぎても同じ地位で同じ給料をもらえるのは会社から評価されていると感じ、一層モチベーションを高く働くことができそうだ。老後のための蓄えもできるので有意義だと思う」と話しています。
経営側は制度の見直しで今後、人件費が毎年平均で5億円ずつ必要になると試算していますが、中長期的に見れば、経験や技術を持った社員が高い意欲で働いてもらうことで売り上げが伸び、この分を補うことができると考えています。
労使交渉の結果、来月から導入することが決まり、交渉に当たった労働組合の前川佳之執行委員長は「若手の賃金を抑制するという提案ではなく、私のように子どもが小さく、60歳をすぎても住宅ローンがある人も多いので、大きな反対はなかった」と話しています。
その一方で「60歳をすぎると人によって健康状態が違うので、全員が元気で健康に働ける仕組みを整えることが必要だ。増える人件費に対応するため、生産性を上げていく取り組みも話し合う必要がある」と指摘しています。
会社の小野寺徹専務執行役員は「従業員にとっても、会社にとっても、絶対にプラスになると信じて、経営としてチャレンジした。会社のねらいどおりになるよう、よい制度にしていきたい」と話しています。
-- NHK NEWS WEB