日本政府が韓国向けの3品目の輸出管理を厳しくしたことをめぐる日韓の貿易紛争がWTO=世界貿易機関の裁判所にあたる「小委員会」での審理に進んだ場合、何が論点になるのでしょうか。WTOの「裁判官」にあたる委員を務めた経験のあるスイス・ベルン大学のピーター・バン・デン・ボッシュ教授は、安全保障上の懸念が理由だとする日本の主張が認められるためには韓国企業が適切な貿易管理を怠ったとする事実を示すことが最大の焦点になるという見方を示しました。
バン・デン・ボッシュ教授はおととしまでの8年間、WTOの紛争処理機関の2審である「上級委員会」で裁判官にあたる委員を務めました。
日本の輸出管理の厳格化について韓国政府は、GATT=「関税および貿易に関する一般協定」に定められた加盟国間での差別の禁止や数量制限の禁止に違反すると訴えています。
これについてバン・デン・ボッシュ教授は、日本から3品目の輸出の審査手続きを簡素化する優遇措置を受けている国が韓国以外に存在することから「韓国にとって日本の措置が差別の禁止などを定めたルールに違反すると立証するのは難しくはない」という見方を示しました。
また、日本の措置は太平洋戦争中の「徴用」をめぐる裁判と関連した政治的な動機に基づくという韓国の主張については「差別や数量制限の禁止規定において政治的な動機があるかどうかは重要ではない」と述べ、審理では背景よりもルールに沿っているかどうかが重視されるという見方を示しています。
一方、日本は韓国向けの輸出管理を厳しくしたことについて安全保障上の懸念があるためだと反論しています。韓国に輸出された半導体などの原材料は軍事転用が可能であるのにもかかわらず韓国側の貿易管理に不適切な事案が見つかっており、安全保障上の懸念は明らかでルール違反にはあたらないとしています。
これについてバン・デン・ボッシュ教授は、「日本は安全保障上の目的があれば例外を認めるとするGATTの規定を根拠にして主張するだろう」という見方を示しました。
そのうえでWTO加盟国の間では、この規定が安易に利用されて貿易上の例外措置が増えることへの懸念があることから、日本がこの規定を根拠に主張する場合は「北朝鮮に原材料が渡ったというような韓国企業が適切な管理を怠った事実を示すことが極めて重要になる」と指摘しました。
ただ、2審の上級委員会ではWTOに不満を持つアメリカが新しい委員の承認を拒否しているため、このままでは、ことし12月に機能停止に陥るおそれが高まっています。
バン・デン・ボッシュ教授は「小委員会の判断が出るのは来年以降になる。日本と韓国のいずれかがその判断を受け入れない場合2審の審理を行うことができず、日本と韓国のいずれも法的拘束力を持つ最終判断を得られないままになるおそれがある」と述べ、WTO改革が進まないかぎり日本の輸出管理強化をめぐる審理は大きな影響を受けることを避けられないという見方を示しています。
-- NHK NEWS WEB