福島第一原子力発電所の事故の前に、東京電力以外の複数の電力会社が想定を超える津波の対策を進めていたことがNHKの取材でわかりました。しかしほとんどの対策が発表されておらず、専門家は公表されていれば業界全体として対策が進んだ可能性もあったとして、東京電力や電力業界の体質の検証が重要だと指摘しています。
9年前、福島第一原発は東京電力の想定を超える15メートル余りの津波に襲われ、メルトダウンを起こしました。
NHKが事故の前の電力各社の津波対策を取材したところ、静岡県にある中部電力・浜岡原発では、想定を超える巨大津波で地下トンネルから海水が敷地内に入り込む可能性を考え、事故の前に防水性をより高めた扉の設置を進めていました。
また、配管の隙間をふさいで海水の流入を防ぐ工事を進めていたほか、高さ10メートル以上の防潮堤の設計にも着手していました。
日本原子力発電も浜岡原発を視察したうえで、茨城県の東海第二原発で想定を超える津波対策として盛り土の造成や原子炉建屋の防水などを進めていました。
しかし、こうした対策はほとんどが発表されておらず、中部電力は「一部の津波対策が社として意思決定されていなかったため、公表していなかった」としています。
また、日本原電は東京電力の方針に合わせ、国に巨大津波への対策について一部、報告しないようにしていたことがわかっていますが、未発表の理由については公にしていません。
原子力業界に詳しい、多摩大学大学院の田坂広志名誉教授は、2社が対策を進めていたことは評価したうえで、公表しなかった背景について、「一部の会社が対策を進めると、ほかの社もやらざるをえなくなるし、住民からも無用の不安を持たれるのではないかと、心配する文化が業界にはある」と分析します。
そのうえで、「公表されていれば、メディアも取り上げて世の中が注目し、ほかの電力も動かざるをえなくなる。そうなれば、東京電力も対策を早めに打っていたかもしれない」と述べ、東京電力や電力業界の体質の検証が重要だと指摘しています。
詳しくは、15日夜9時から放送のNHKスペシャル「メルトダウンZERO原発事故は防げなかったのか~見過ごされた“分岐点”~」でお伝えします。
-- NHK NEWS WEB