アメリカ、イギリス、中国などが異例のスピードで新型コロナウイルスのワクチン開発を進める中、自国民のためのワクチン確保の動きも活発になってきています。こうした動きに対しWHO=世界保健機関は、必要なところにワクチンが行き届くことが重要だとして、経済力の乏しい発展途上国などにも安定してワクチンを供給できる枠組みへの参加を呼びかけています。
WHOによりますと、今月24日の時点で新型コロナウイルスのワクチンは世界中で合わせて166種類が開発中で、このうち25種類で実際にヒトに接種して安全性や効果を確かめる臨床試験が始まっています。
このうちイギリスのオックスフォード大学が製薬大手アストラゼネカと開発しているワクチンは今月20日、およそ1000人を対象に行った臨床試験で良好な結果が得られたと発表され、すでに開発の最終段階に当たる第3段階の試験に入っています。
NIH=アメリカ国立衛生研究所と製薬会社モデルナが開発中のワクチンも、今月27日から第3段階の試験に入る予定です。
このほか、アメリカの製薬会社イノビオが近く第2段階に入るとしているほか、中国の企業などが開発している複数のワクチンも第3段階の臨床試験を始め、アメリカ トランプ政権で感染対策に当たるファウチ博士は「順調に進めば、ワクチンは早ければことしの終わりか来年の初めにも手に入る」と見通しを示しています。
こうした異例のスピードで進むワクチンの開発は、アメリカをはじめとした各国が投じる巨額の資金によって支えられています。
トランプ政権は、早期のワクチン開発と自国民への供給を目指す「ワープスピード作戦」に100億ドルを拠出すると表明していて、すでにイギリスに本社のあるアストラゼネカに12億ドルの資金を拠出し、ワクチン3億回分を確保したほか、製薬大手ファイザーなどが開発に成功した場合、19億5000万ドルを支払い、1億回分のワクチン供給を受けることで合意しています。
確保したワクチンについてアメリカ政府高官は先月16日、自国民への供給を最優先する方針を明らかにし、「余剰が出ればほかの国に回す」と述べました。
ヨーロッパでも、イギリスがアストラゼネカなどが開発するワクチンに対し6550万ポンド(89億円余り)の資金を提供し、1億回分のワクチンの供給を受けることで合意したほか、ファイザーなどからもワクチンの供給を確保しています。
またフランス、ドイツ、オランダ、イタリアの4か国は先月、ワクチンの確保に向けて協力するグループを形成し、EU=ヨーロッパ連合の国々に対して最大で4億回分のワクチンを原価で供給してもらうことでアストラゼネカと合意しています。
先進国が巨額の資金でワクチンの供給を確保する一方、WHOのテドロス事務局長は「すべての人が必要なものを手に入れられるようにしなければならない」として、ことし4月、発展途上国でのワクチンの普及に取り組む国際団体とともに、治療薬やワクチンなどの公平な分配を促進するための協力体制を作ると発表しました。
5月には、治療薬とワクチンなどを発展途上国などでも製造しやすくできるように特許や技術を管理する国際的な枠組みを創設しましたが、23日の時点で参加を表明しているのは南米の国々などを中心とした39か国にとどまり、開発が盛んなアメリカなどG7=主要7か国は加わっておらず、実効性に疑問が持たれています。
こうした中、アストラゼネカは、インドにあるワクチンメーカーと提携し、中低所得の国々に10億回分を供給することにしていて、「ワクチンを広く公平に行き渡らせるために努力を続けていて、これによって利益を得ることはない」とコメントしています。
一方、独自にワクチンの開発を進める中国は、アフリカ諸国への医療援助の一環としてワクチンも提供すると表明していて、いわば「ワクチン外交」を展開する構えを見せています。
-- NHK NEWS WEB