高値水準が続くガソリン。背景にあるのはロシアによる軍事侵攻です。ロシアからの原油輸出が滞るのではないかという懸念から原油価格が高騰しているからです。こうした中、注目されるのが、中東・湾岸地域の産油国の動向です。原油価格はなぜ下がらないの?詳しく解説します。
(ドバイ支局長 山尾和宏)
高値水準が続くガソリン。背景にあるのはロシアによる軍事侵攻です。ロシアからの原油輸出が滞るのではないかという懸念から原油価格が高騰しているからです。こうした中、注目されるのが、中東・湾岸地域の産油国の動向です。原油価格はなぜ下がらないの?詳しく解説します。
(ドバイ支局長 山尾和宏)
なぜ原油価格が高騰しているの?
ロシアが世界有数のエネルギー大国だからです。
ウクライナ情勢をめぐり、アメリカやヨーロッパ各国などが、ロシアへの経済的な締めつけを強めていることで、市場でロシアからの原油の供給が滞る懸念が強まっているのです。
原油は、WTI(※1)の先物価格が3月、一時1バレル130ドルを超え、13年8か月ぶりの高値となりました。直近も100ドル前後の高い水準が続いています。
※1…ニューヨークの先物市場で取り引きされているWTI(West Texas Intermediateの略)という原油の先物商品。アメリカのテキサス州など中西部で生産される原油で、原油価格の国際指標の1つ。
ロシアって、エネルギー大国なの?
ロシアは石油(※2)生産量が世界3位のエネルギー大国です。アメリカ、サウジアラビアに次ぎ、世界の12.1%を占めています。上位10か国はアメリカ、サウジアラビア、ロシア、カナダ、イラク、中国、UAE、イラン、ブラジル、クウェートです。
※2…原油やシェールオイル、油砂などを含む
どうしたら価格が下がるの?
原油価格もほかの商品と同じように、原則は需要と供給のバランスで価格が決まっています。このため原油の生産量が増えれば価格は安くなります。
ただ、原油の場合に特徴的なのは、主な産油国がグループを作り「生産量を相談して決めている」点です。
そして、このグループ「OPECプラス」が国際的な原油価格に大きな影響力を持っています。
「OPECプラス」に参加する国は?
世界最大の産油国アメリカは不参加ですが、OPEC=石油輸出国機構の13加盟国のうち10か国と、ロシアなども加えた世界中の主な産油国20か国が参加しています。
(OPEC加盟国10か国)
サウジアラビア、イラク、UAE、クウェート、ナイジェリア、アンゴラ、アルジェリア、コンゴ、ガボン、赤道ギニア
(OPEC非加盟国10か国)
ロシア、メキシコ、カザフスタン、オマーン、アゼルバイジャン、マレーシア、バーレーン、南スーダン、ブルネイ、スーダン
※割り当てられている原油生産量が多い順
「OPECプラス」で中心的な国は?
原油生産量の多い中東・湾岸地域の産油国です。具体的には、サウジアラビア、イラク、UAE、クウェートの4か国です。
この4か国を合わせると、世界ではアメリカを上回る24.3%の生産量を占めています。
(英石油大手BPのデータに基づく)
価格を下げるために、増産をしないの?
実は、新型コロナウイルスの影響で原油の需要が落ち込み価格が急落した2020年5月、OPECプラスは価格を維持しようと世界の生産量の1割にあたる量の生産を止め、それ以降、生産量を徐々に増やしています。
ただウクライナ情勢で価格が高い水準になってきていることを受けて、原油の消費国は小幅な増産では足りないとして大幅増産を求めています。
しかし中東・湾岸地域の産油国は増産に慎重なんです。
増産に慎重な理由その1「高い石油依存」
中東の外交官、エネルギー政策の専門家、産油国の事情に詳しいジャーナリストなどへ取材したところ、理由は大きく3つあるとみられます。
1つ目の理由は「高い石油依存」。
中東・湾岸地域の産油国にとって、原油の販売は国家収入の生命線です。このため価格は高い方がいいと考えています。
原油を増産すれば原油価格は下がりますので、原油の需要が今後も伸びるのか慎重に見極めているといいます。
供給量は足りているのに、ウクライナ情勢を受け不安から石油を買い込む人が多く、一時的に価格が上がっているのではないかと疑っているというのです。
増産に慎重な理由その2「米とサウジアラビアの関係」
2つ目の理由は「アメリカとサウジアラビアの冷え込んだ関係」です。
世界2位の産油国サウジアラビアは、アメリカと同盟関係にあり、OPECプラスでも強い発言力があります。
しかしバイデン政権では強権的な体制や人権状況を問題視して、サウジアラビアとの関係の見直しを図っています。
こうしたこともあって、サウジアラビアはアメリカなどからの原油増産の求めに応じる姿勢は示していません。
増産に慎重な理由その3「深まるロシアとの関係」
3つ目の理由は「深まるロシアとの関係」です。
サウジアラビアはもともと1960年に発足したOPECのもとで国際的な原油価格への影響力を保ってきましたが、1980年代に入るとOPECに加盟していない産油国が増えて影響力が低下。
そこで手を組んだのがライバルでもある世界3位の産油国ロシアでした。
2016年、サウジアラビアとロシアが主導する形でOPECプラスが生まれ、再び原油価格への影響力を強めるようになりました。
ウクライナへの軍事侵攻をめぐって、サウジアラビアはロシアへの配慮も示していて、アメリカなどからの増産の求めには応じないだろうと専門家は分析しています。
結局、どうなるの?
中東・湾岸地域の産油国が増産に応じるのは簡単ではなさそうです。
OPECの主要な加盟国であるUAEの駐米大使は3月9日、「われわれは増産を望んでいる、OPECにさらなる増産を呼びかける」という声明を発表しました。
増産に慎重と考えられてきた中東・湾岸地域の産油国としては初めての前向きな発言でした。
しかし同じUAEのエネルギー相がすぐにOPECプラスの意向を尊重する考えを表明し、UAE内でも温度差もあります。
OPECプラスにも参加するUAEは独自に増産することはできませんし、OPECプラスで追加増産を実現するにはサウジアラビアやロシアといった発言力のある産油国からの支持が不可欠だからです。
OPECプラスの参加国は3月31日、今後の原油の生産方針を話し合う予定です。
ウクライナ情勢をめぐって強まる大幅増産の要請を産油国がどう受け止めるのかに注目しながら、取材を続けていきたいと思います。