安倍元総理大臣が奈良市で演説中に銃撃されて死亡した事件で、逮捕された容疑者や、その家族と20年以上にわたって関わりをもってきた、旧統一教会の地元の幹部だった男性がNHKの取材に応じ、事件のおよそ1年前に容疑者から教会への恨みなどが書かれたメールが送られてきたと証言しました。
ことし7月8日、奈良市で演説していた安倍元総理大臣が銃で撃たれて死亡した事件で、警察は、市内に住む無職の山上徹也容疑者(41)を逮捕し、殺人の疑いで捜査しています。
警察のこれまでの調べで、山上容疑者は、母親が多額の献金をしていた「世界平和統一家庭連合」、旧統一教会に恨みを募らせ、団体と近しい関係にあると思った安倍元総理大臣を狙ったとみられることがわかっています。
容疑者の母親が通っていた旧統一教会の奈良市内の教会で、平成17年まで教会長を務めていた男性が、事件から2か月になるのを前に、NHKの取材に応じました。
この元幹部は現在も教会の信者で、山上容疑者や、その家族と20年以上にわたって関わっていて、事件後は容疑者の母親や妹の代理人を務めているとしています。
元幹部によりますと、事件の1年余り前の去年5月、山上容疑者から、旧統一教会への恨みなどが書かれたメールが届いたということです。
元幹部は「直接的に書いているわけではないが、統一教会を恨んでいるのなら、一緒に恨みを晴らしましょうと感じさせる内容だった」と話しました。
容疑者が投稿していたとみられるSNSには、この直後に、元幹部に宛てたとみられる投稿があり、「今回連絡してみようと思ったのは、あなたも統一教会を憎んでいるだろうと思ったからです。憎んでいるならさぞかし深く深く憎んでおられるだろうと。統一教会を許せないという気持ちがあるならどうか連絡してください」などと書かれていました。
元幹部は、容疑者から受け取ったメールは、この投稿と同様の内容だったとしています。
しかし、元幹部がメールに気が付いたのは、事件のあとだったということで、「そのときに気付いていれば、自分なりに対応できたかもしれない。そうすれば、今回のような事件は起きなかっただろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだ」と話していました。
元幹部などによりますと、容疑者の母親は平成3年に旧統一教会に入信し、父親の死亡保険金のほか、祖父から相続された会社事務所の土地、当時の自宅の土地を売却して、合わせて1億円を教会に献金したということです。
容疑者は、平成14年から3年間、海上自衛隊に勤務しましたが、平成17年に自殺を図っていて、元幹部によりますと、容疑者は当時、困窮していた兄と妹に自分の死亡保険金を渡そうと思ったなどと話していたということです。
元幹部は一家の窮状を見かねて、平成21年に教会に掛け合い、献金した1億円のうち、合わせて5000万円を返金することで合意したということです。
しかし、その後の平成27年には、容疑者の兄が自殺したといいます。
元幹部は「生い立ちを考えると、容疑者は旧統一教会が社会悪だということを心底信じて、自分の人生をかけて、それを成敗するために悩んでいたのではないか。教会が悪いということを、どこかで確信したのだろう。『なぜ自分がこれほど苦しめられないといけないのか』という思いを募らせていたのではないか」と話しました。
元幹部は、警察と検察の事情聴取に応じ、容疑者とのメールのやり取りや、母親の献金額、それに献金のいきさつなどについて説明したということです。
-- NHK NEWS WEB