高層マンションが密集して立ち並ぶ香港では、市民の住宅事情が悪化して大きな社会問題になっていて、少しでもよい環境で生活してもらおうと支援する人たちの活動が注目されています。
香港の郊外にある集合住宅で生活する一家は、8畳ほどしかない部屋で夫婦と2人の子どもの4人が生活しています。月収は夫婦合わせて20万円余りと、香港では少なくない収入ですが、この一家が払える月6万円ほどの家賃ではどんなに探してもこの広さが限界だと言います。
収納はなく、服は袋に入れるなどして壁にかけるしかありません。母親は「部屋が狭くて、子どもが健康に育たない気がします」と話していました。こうした狭い物件は、もともとは一つの世帯用の大きな一室を複数の世帯に貸し出せるように小さな部屋に分割したものです。香港では「小さく切り分けた部屋」という意味の「トンファン」と呼ばれ、およそ20万人が生活しています。
狭い土地に多くの人が暮らす香港は、慢性的に住宅が不足してきましたが、中国本土から流れ込んでいる巨額の投資マネーが住宅事情をさらに厳しいものにしています。最近も中国の不動産会社が香港で過去最高額となる2400億円余りで土地を購入するなど投資目的で不動産を買う動きが相次ぎ、香港全体の住宅価格は過去10年間で3倍に上昇しました。
価格が高騰するマンションを買えるのは一部の富裕層だけだとして、専門家は「金のない人は小さな部屋しか手が届かなくなっており、結婚や子どもを持つことに消極的になる原因にもなっている」と話すなど強い危機感を示しています。
こうした状況の中、トンファンに住む人たちの生活を少しでも改善したいと活動しているNPOがあります。代表で、建築士の馬潔怡さんは企業からの寄付をもとに、無償で、小さな部屋を有効活用するアドバイスを行っています。馬さんは限られた空間をできるだけ利用できるよう、部屋に合わせて折り畳み家具などを提供する支援を続けています。
これまでトンファンに住む50世帯もの家族を助けてきたということですが、馬さんは政府が動かない限り、住宅問題を根本的に解決することは難しいと訴えています。
-- NHK NEWS WEB