中国に返還されてから20年を迎えた香港では今、さまざまなひずみが生じています。その背景にあるのが増え続ける中国本土からの移住者の存在です。
香港で生まれ育った人が“香港人”と呼ばれるのに対し、ビジネスチャンスやよりよい教育環境を求めて、返還後に香港に移住した中国本土出身者やその子どもたちは“新・香港人”と呼ばれています。
その数は20年間で、延べ140万人。再び本土に戻った人もいますが、全員が住み続けていると仮定すると、今の香港の人口の5分の1近くにあたります。
28歳の同い年の“新・香港人”と“香港人”を取材すると、香港の将来に対する考え方に大きな違いが見てとれました。
“新・香港人”の1人、中国・福建省出身の林成さんは香港の大学院で学び、卒業後、香港の保険会社に就職しました。父親が公務員で中国本土に知り合いが多く、本土の富裕層を顧客にできるため営業成績も好調です。4年前には5000万円のマンションを購入しました。
林さんは「よりよいチャンスや生活を求めて移住するのは当然のこと。香港には可能性があります」と香港の未来に希望を抱いていました。
一方、“香港人”の文廸匡さんは大学卒業後、社会福祉士として働いていて、月収は香港で平均的な30万円。両親のアパートで家族4人暮らしです。
文さんは結婚を控えていますが、物価が高すぎて今の給与では香港では暮らしていけないと、オーストラリアへの移住を考えています。
さらに、3年前の学生などによる大規模な抗議活動で、本土の影響を強く受けるようになった香港政府が、活動を強引に抑えたと感じていて、こうした政治的な理由も移住の決断を後押ししたといいます。
地元で移住を仲介する会社には、文さんのように考えて相談に訪れる若者がここ数年増え続けているということで、文さんは「生まれ育った香港を離れるのはつらいですが、これも人生なのでしかたありません」と諦めた様子で話していました。
返還から20年で増え続ける中国本土からの移住者は、香港の街の空気を変えつつあります。
-- NHK NEWS WEB