20年前、イギリスから中国に返還された香港では、中国本土から流れ込む巨額の投資マネーによって、古い建物は姿を消し、暮らしも様変わりしています。こうした中、ミニチュアをつくって、中国に返還される前の香港の暮らしを再現しようという作家の取り組みに共感が広がっています。
ミニチュアを作っているのは、香港出身の黎熾明さん(50)です。
もともとは建設会社で建物の模型を作っていた黎さん。失われつつある風景と暮らしを残そうと、昔の記憶や写真などを頼りに、主に1980年代の香港を、12分の1のサイズのミニチュアで作っています。
このうち、かつて香港の至る所にあった理髪店を表現した作品には、髪を切るハサミや使い込まれた古いイスのほか、配水管のサビまでもが精巧に表現されています。
また、「唐楼」(とうろう)と呼ばれる形式の低層アパートの作品は2階から上が住居、1階が商店となり、濃厚な人間関係が築かれていた様子が表現され、当時暮らしていた人たちの息づかいまでもが感じられます。
黎さんが香港のショッピングモールで開いた展示会には、ひと昔の様子を子どもたちに見せたいと大勢の家族連れが訪れ、数多くの作品を見入っていました。
展示会を訪れた40代の女性は「この時代を経験していない人でも当時の生活がわかるのでいいです」と話していました。
今では黎さんが開いているミニチュアの作り方教室の生徒も増えていて、急速に変わり続ける香港のもとの暮らしを見つめ直そうという取り組みへの共感が広がっています。
-- NHK NEWS WEB