タレントのビートたけしさんが、自身初となる恋愛小説を発表したのに合わせてNHKの単独インタビューに応じました。「アナログな恋」を描いた作品に込めた思いや、『人生は、まだ5合目』という70歳の現在の心境とは。
22日に発売されたビートたけしさん(70)の書き下ろし小説『アナログ』は、自身初となる恋愛小説で、お互いの連絡先も知らない男女が携帯電話もメールも使わずに心を通わせ、思いを深めてゆく、アナログな恋の様子を描いた作品です。
たけしさんは、小説の発表に合わせてNHKの単独インタビューに応じ、40分余りにわたって、思いを語りました。
この中で、今回、初めての恋愛小説を書いたことについて、「バイオレンスものを続けていくのもちょっと飽きてきたんで。外国でもよく、『たけしは男女の映画を撮らないね』って言われていて、『脚本を書く準備はしてある』って言いながら、具体的には何も動いてなかったんだけど、漫才師の後輩の又吉(直樹)が芥川賞を取ったって聞いて。はらわた煮えくり返って、『ちきしょう』という思いで書いた」と、筆を執ったいきさつを語りました。
また、執筆の苦労については、「映画だと、1つの場面を描写するときカメラで10秒も撮影すれば済むのに、小説は、『前の日の太陽の残りのアスファルトの蒸せるような暑さが』とか、全部書かなきゃいけない。これは大変だった。それに母体がお笑いだから、恋愛の話なのにどうしてもお笑いに走っちゃって」と、語っていました。
今回、手を握ることもしない、極めて純粋な男女の恋を描いたことについて、「自分自身のことを言えば、ここ2年ぐらいは非常にプラトニック。体の衰えで、こういう小説を書くには、ちょうどいい感じになった」としながらも、「地獄絵図のような最悪な男女間も経験して、今だったらそういう純粋な恋愛をしてみたいと思っている」と打ち明けていました。
また、携帯電話もメールも使わない男女の恋を描いたことについては、「もしも会えなかったら、想像すればいい。『何かあったのかな』とか『自分のこと嫌いになって来るのやめようと思ったのかな』とか。そのほうが、おもしろい。そういう時に電話で、『会社で用事ができて仕事が残っちゃった。ごめんなさい、またね』っていうのは、何の味もないと思う。たとえ不便でも、その人が来ないことをきっかけにして、もう1回、その人のことを考えることができる」と、アナログな人間関係の魅力を語っていました。
さらに、物語の中で登場人物が涙を流す場面が多く登場することについて、「監督作の最初の頃から、自分は乾いた映画が好きで、てれている部分があった。下町のおやじが、『ばかやろう、泣いてたまるかよ』というような。でも今度のは、泣かしちゃおうと思った」と、これまでの作風との違いを認めたうえで、「最近は、『情』がなくなってる。『友情、友情』と言うわりに、何かある時には見捨てちゃったり。男女の関係も、家の経済状態とか社会的地位の違いなんかを理由に、それまでいい仲だったものが、パッと離れる。そういうことが今は多い。そうじゃなくて、人間関係に固執するというか、逃げない態度というものが、今の時代はあまりない。正面切ってぶつかることで、つい泣いてしまう」と作中の涙の場面に込めた思いを語っていました。
最後に、70歳を迎えた今、人生のどのあたりまで来たと感じているか尋ねると、「『富士山何合目』で言うと『逆向きの5合目』だと思う。もう上がっちゃった。今はもう下り坂に入って5合目まで下りてるんだけど、振り返ったらやり残したことがあるから、また登ろうとしている。『俺はおもしろいんだ』、『まだ生きていてもおもしろいんだ』って。そういうずうずうしいことを考えてる」と、今後への挑戦の思いを語っていました。
-- NHK NEWS WEB