今月2日、慢性腎不全のため神奈川県藤沢市の自宅で92歳で亡くなった絵本作家のかこさとしさんは、「だるまちゃんシリーズ」や科学をテーマにした絵本など、子どもの好奇心を引き出す作品を半世紀以上にわたって描き続けてきました。その絵本作家としての原点は戦争体験にあったといいます。
子どものころ、軍の航空士官を志していたかこさんは19歳で終戦を迎え、態度を一変させた大人たちの姿に幻滅するとともに、軍人に憧れた自身にも強い責任を感じたといいます。
去年11月、NHKの取材に対し、「僕自身も軍人になろうとしたんだから償いをしなくてはと。そういうものに染まっていない子どもたちに自分の考えできちんと賢く世の中を判断できる力を持ってもらいたいと思った」と語っていました。
かこさんは、戦後、企業の技術者として働くかたわら、ボランティアで紙芝居を作り始め、次第に絵本作家として活躍の場を広げていきました。
主人公のだるまちゃんがユニークなキャラクターと出会う「だるまちゃんシリーズ」など、作品は世代を超えて親しまれてきました。
90歳を超え、緑内障を患いわずかな視力しかない中でも精力的に描き続け、ことし1月には東日本大震災で被災した「宮城」と「福島」、そして戦争の記憶が色濃く残る「沖縄」にちなんで、3冊の最新作を出版しました。
かこさんは「もう時間も無いと思い、描き残しておきたかった。東北の震災の問題が解決していない状況を少しでも考えてもらいたいと。また沖縄もいろいろな問題が全然片付いてないけれど、絵本を通して少しは沖縄の人たちの側面援助になるよう、ちゃんと描きたいと思いました」と話していました。
ことし3月には、自身が小学6年生の時につづった100ページ余りの卒業文集をもとに、戦争を含めて80年前の時代背景を伝える本を出版していました。
子どもたちに希望を託し続けたかこさんが繰り返し語っていたのは、「きちっと今の社会の状況を見据えて、その問題点をひとつひとつ克服する力、次の未来を開拓していく力が子どもたちにはあると思います。今よりも美しく、今よりも健やかに、今よりもより賢く、これを子どもたちに頑張ってほしい」ということばでした。
-- NHK NEWS WEB