ことし3月から先月まで試験的な漁が行われたコウナゴについて、福島県の業者から出荷されたものが東京・築地市場の3か月間の取り引き量の半分以上を占めたことがわかりました。
春を告げる魚として知られるコウナゴは、東日本大震災が起きる前、福島県が全国有数の産地となっていて、年によって変動はあるものの多い年では4000トン以上の水揚げがありました。
原発事故の影響で、一時、漁が自粛されましたが、放射性物質の検査で安全性が確認されたことから、事故の2年後には漁が試験的に再開され、水揚げ量は着実に増加してきました。
6年目となる今シーズンは、ことし3月から先月までの3か月間で1076トンの水揚げがあり、平年並みだった平成22年の水揚げの6割ほどまで回復してきました。
東京都が20日に公表した市場統計情報によりますと、ことし3月から先月までの3か月間に、築地市場に入荷されたコウナゴのうち、福島県の業者が出荷したのは164トンと、この期間の半分以上を占めたことがわかりました。
去年と比較しますと、出荷量は1.6倍に、シェアも去年のおよそ3分の1から1.4倍になり、価格も全国平均より6%ほど高い値段で取り引きされたということです。
県や築地の卸売業者によりますと、シェア拡大の背景には伊勢湾や瀬戸内海など、コウナゴの主な漁場で不漁が続き、全国的に品薄となっていることに加え、加工業者などが放射性物質の検査結果を基に安全性のPRを継続的に行ってきたことなどがあるということです。
福島県沖では原発事故の影響で、海域や回数を限定した試験的な漁が行われていますが、ほとんどの魚介類の安全性が確認された一方、去年の水揚げ量は震災前のおよそ13%にとどまり、販売面が本格操業再開に向けた1つの課題になっています。
このため、今回のコウナゴのシェア拡大について、漁業関係者は震災以降に失われた販路の再構築につながると期待を寄せています。
相双コウナゴ操業委員長の立谷義則さんは「今シーズンのコウナゴ漁は値段もよく、水揚げ量も去年より増えました。築地で半分が福島の魚というのは、大変うれしく、自信がつきます。コウナゴのようにほかの魚も水揚げ量や値段が話題になるようなインパクトがあれば、より復興の後押しになると思います」と話していました。
一方、築地の卸売業者、第一水産の鈴木崇之係長は「震災直後は風評被害が大きかったが、メーカーや漁業者の努力で徐々に違和感がなくなり、シェアが増えてきている。おととしから一大産地の伊勢湾が禁漁になり、瀬戸内海や宮城県以北も不漁なので、ことしは半分以上が福島県産になった。福島のコウナゴの品質はものすごくいいので、売る側としては使ってもらえるのはありがたい」と話していました。
そのうえで、消費者の福島県産の水産物への受け止めについては、「小売店などがかなりナイーブに取り扱っているだけで、消費者は、そこまで気にしていないのが正直な実感です。コウナゴのようにこの魚種は安全ですというのがまず1つあれば、ほかの鮮魚なども少しずつ消費者に溶け込んでいくのではないか」と話していました。
-- NHK NEWS WEB